山月記

山月記


己の珠に非ざることを惧れるがゆえに、あえて刻苦して磨こうともせず、また、己の
珠なるべきを半ば信ずるがゆえに、碌々として瓦に伍することもできなかった。

     ― 中略 ―

人生は何事をも為さぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短いなどと口先
ばかりの警句を弄しながら、事実は、才能の不足を暴露するかも知れないとの卑怯
な危惧と、刻苦を厭う怠惰とが己の凡てだったのだ。


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